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監修:三村 麻子(あなたを忘れない株式会社 代表取締役)

最近、オフィスで革靴を履く人が減りました。代わりに増えているのが、スニーカーのような履き心地でありながら、見た目はきちんとして見える「ビジネススニーカー」です。駅や電車の中、打ち合わせ先のビル。どこを見ても、足元の景色はひと昔前とは明らかに違っています。
この変化は、単なるファッションの話ではありません。同じような変化が、実は「葬儀」の現場でも静かに進行しています。
葬儀は小さく、短く、家族だけで。かつて当たり前だった”大きくてフォーマルな葬儀”は、確実に減っています。家族葬、一日葬、直葬。いまやこれらの言葉は、葬儀の選択肢として当然のように並ぶようになりました。
革靴が消え、葬儀が小さくなる。このふたつの変化は、一見まったく別の現象に見えますが、実は同じ地下水脈でつながっています。今回は、革靴を切り口にしながら、葬儀がどのように変わってきたのか、そしてなぜ変わっているのかを、やさしく紐解いていきます。
革靴と葬儀には、「他者への応答」という共通の役割がありました。
革靴は、自分の足のためだけに履くものではありません。相手に対して「私は場をわきまえています」「あなたに敬意を払っています」と示すための装いでもあります。
同じく葬儀も、故人を送るためだけの儀式ではありませんでした。地域社会や親族、関係者に対して「きちんとお見送りしました」という応答を見せる場でもあったのです。
だからこそ、この二つは同じ社会の価値観に支えられ、同じ方向に変わっていきます。革靴が変われば、葬儀もまた変わる。同じ時代の空気の中で、同じ変化が起きているのです。
戦後から高度経済成長期にかけて、日本の葬儀は大きく姿を変えました。
経済的な余裕が生まれたこと、核家族化が進んで自宅で人を送ることが難しくなったこと、葬祭業が産業として整備されたこと。これらが重なり、葬儀は「社会的な儀式」として標準化されていきました。
喪服を着て、時間通りに集まり、焼香の順序や席次を守り、形式に沿って進行する。多くの人が参列し、「きちんと送ること」そのものが重視される。つまり葬儀は、人生の中でもっともフォーマルな時間として定着していったのです。
当時の葬儀には、ある種の社会的な意味が込められていました。参列者の多さ、供花の並び、香典の額。それらは故人や遺族の人徳や社会的な立場を映し出す「看板」の役割を果たしていたのです。
だからこそ、葬儀は単なる「お別れの場」ではなく、「遺族の社会的ポジションを示す場」でもありました。大きな葬儀ができるということ自体が、家としての信用の表れだったのです。
このフォーマルな時代を象徴していた装いのひとつが、革靴です。
革靴は単なる履き物ではありません。「人の目にどう映るか」を強く意識した装いでもありました。
これらを、自分の快適さのためというよりも、他者に対して示すためのサインとして身につける。多少きつくても、疲れても、革靴を履く。そこには「自分の快適さよりも、場や他者を優先する」という姿勢が表れていました。
それが「ちゃんとしている」ということだったのです。
葬儀においても、この構造はまったく同じでした。
葬儀は本来、故人との別れの時間であると同時に、社会の中での関係性を確認し、示す場でもあります。
こうした要素はすべて、「遺族がどのように故人を送り、どのような立場にあるのかを他者に伝える行為」でもありました。時間をかける、手間をかける、お金をかける。これらは単なる自己満足ではなく、「きちんと送りました」という社会的な表明として機能していたのです。
葬儀とは、故人のための儀式であると同時に、社会に対する”応答”の場でもあった。このことが、戦後日本の葬儀のかたちを長く支えてきました。
ところが、この前提が少しずつ崩れ始めています。
オフィスの足元にスニーカーが登場し、やがて当たり前になりました。しかもそれは「だらしない」と見なされるどころか、「合理的で洗練された選択」として受け止められるようになっています。
見た目はフォーマルに寄せつつ、機能はスニーカー。長時間の移動や立ち仕事を楽にこなすことができ、足の健康にも優しい。こうした商品が一般化したことで、革靴の「唯一絶対のフォーマル」という位置は揺らぎました。
ここで起きているのは、単なる服装の変化ではありません。「ちゃんとしている」の定義そのものが変わったのです。
こうした価値観が、フォーマルを上書きし始めています。かつては「我慢して形式を守る」ことが美徳でしたが、いまは「無理なく長く続けられる」ことが合理性として評価される時代です。
この価値観の変化は、そのまま葬儀にも流れ込んでいます。実際に増えているのは、次のような形です。
そこに共通しているのは、「無理をしない葬儀」というキーワードです。
かつての葬儀には必要とされていたものの、今は少しずつ見直されている要素があります。
これらは「無くなった」わけではありません。ただ、「すべて行うのが当たり前」ではなくなり、家族の状況や故人の希望に合わせて選ぶものに変わりました。葬儀のメニューが一方的に与えられるものから、自分たちで選ぶものへと変わりつつあるのです。
ここで重要なのは、「スニーカーが葬儀を変えた」のではない、という点です。
フォーマルを過剰に重視しない社会。快適さや合理性を優先する価値観。
これらが同時に、革靴離れと葬儀の簡略化を引き起こしています。どちらか一方が原因で、もう一方が結果、という関係ではありません。同じ価値観から、二つの現象が同時に生まれている。そう捉えるほうが実態に近いのです。
言い換えれば、革靴を履かなくなった社会は、”フォーマルであること”そのものを見直している最中だといえます。私たちは今、戦後数十年にわたって積み上げられてきた「ちゃんとしている」の基準を、少しずつ書き換えているのです。
この変化は、多くのメリットをもたらしました。
一方で、実際に簡略な葬儀を行った方から、こんな声も増えています。
つまり、楽にはなった。しかし「意味」が揺らいでいる。これが今の葬儀が置かれている状況です。
かつての葬儀は、形式そのものが「意味」を運んでくれていました。決まった順序で進めば、それだけで「ちゃんと送った」という感覚が自動的についてきたのです。
しかし、簡略化された葬儀では、形式が少ない分、意味づけを自分たちで用意する必要があります。棺に何を納めるか、故人の好きだった音楽を流すか、どのタイミングで家族だけの時間を持つか。一つひとつの選択の積み重ねが、今の時代のお別れの質を決めるのです。
スニーカーは、私たちに「楽でいい」という選択肢を与えました。そしてその価値観は、葬儀という最もフォーマルだった場にも広がっています。
これからの葬儀は、おそらくさらに多様化していくでしょう。
その判断は、もはや形式ではなく「自分たちの価値観」に委ねられています。だからこそ問われているのは、「どこまで楽にしていいのか」ではなく、「何を大切にしたいのか」なのかもしれません。
革靴をやめるかどうかも、葬儀を小さくするかどうかも、本質的には同じ問いの上にあります。その問いに、どう答えを用意していくか。私たち一人ひとりの選び方が、これからの「お別れのかたち」を形づくっていきます。
想送庵カノンは、お別れの時間をゆっくりと過ごしていただける、滞在型の安置施設です。形式を最優先にするのではなく、ご家族が「大切にしたい時間」を中心に置いたお見送りを支えたい。そんな想いで運営しています。
家族葬・直葬・一日葬をご検討の方、「簡略でも、意味のあるお別れにしたい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。カノンカフェなどの終活セミナーも定期的に開催しておりますので、情報収集の場としてもご活用いただけます。
A. 人間関係の変化や価値観の多様化、コロナ禍をきっかけとした葬儀観の見直しが重なり、「多くの人に見せる葬儀」よりも「身近な人だけで送る葬儀」が選ばれるようになったためです。費用や遺族の準備負担を軽くしたいという意識もあり、家族葬や直葬が主流になりつつあります。
A. 葬儀は故人を送る場であると同時に、遺族の社会的な関係や立場を示す場でもあったためです。多くの参列者を迎え、丁寧な形式を守ることは、「きちんと送りました」という社会への応答として機能していました。地域や職場とのつながりが今より深かった時代の、フォーマルな儀式文化に支えられていたのです。
A. 直接的な因果関係があるわけではありません。ただし、「フォーマルにこだわりすぎない価値観」が社会全体に広がった結果、ビジネスの場でも葬儀の場でも同時に簡略化が進んでいる、と捉えるのが実態に近いです。どちらも「快適さ」「合理性」「無理をしない」という同じ軸で動いています。
A. 現在では一般的な選択肢として広く受け入れられています。失礼かどうかの基準は形式そのものではなく、「関係者への配慮が行き届いているか」に移っています。親族や故人の友人への事前の共有、後日の報告、弔問の受け入れ方など、コミュニケーションの丁寧さが以前より重視される時代です。
A. 「区切りがつかなかった」「もう少し何かできたのでは」と感じる方は一定数いらっしゃいます。簡略化そのものが悪いわけではなく、あわただしさの中で自分たちなりの納得感を作り損ねると、後から物足りなさが残りやすいようです。小さな葬儀でも、お別れの時間を丁寧に設計することで、悔いが残らないお別れができると、想送庵カノンは考えます。
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あなたを忘れない株式会社
代表取締役 三村 麻子(みむら あさこ)
<想送庵カノン(滞在型安置施設)の運営>
故人と家族が「最後に過ごす時間を大切にする」セレモニーホール
<専門学校>
東京ホスピタリティ・アカデミー
葬祭ディレクター学科 講師
<供養コンシェルジュ>
供養コンシェルジュ協会 理事/講師
<看取りサポートのパイオニア>
高齢者を支える家族に
「疲れない介護」「家族が幸せになる看取りと葬送」を提案。
【看取りの水先案内人として幅広く活動】
家族に深く寄り添う相談スタイルで、
生前のご相談から、お見送りのあとのグリーフケアまで
多数の相談実績と活動歴を持つ終活の専門家。
2004年に葬儀式場の運営に携わって以来、
葬送の現場に立ち続けている。
2019年には、安置と面会に重きを置いた施設として
想送庵カノンを開設。
<サポート内容>
生前整理、介護、葬儀、供養、遺品整理、グリーフケア
<著書>
・初めて喪主になる人のための親を心から見送る葬儀ガイド
・親が死んだ5分後にあなたがしなければならないこと
・離れて暮らす親と上手に付き合うための本
・親には一人暮らしをさせなさい
・親の老後に寄り添うために知っておきたいこと
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