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監修:三村 麻子(あなたを忘れない株式会社 代表取締役)
「霊柩車を見たら親指を隠す」――子どものころ、家族や友人からそんな話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
「私も子供の時には霊柩車を見かけるたびに、親指を掌に入れてぎゅっと隠していました。」一見、不思議で少しおまじないめいた言い伝えですが、その背景には、家族を大切に思う日本人ならではの祈りの気持ちが息づいています。
そして街を走る霊柩車は、時代の移り変わりとともに大きくその姿を変えてきました。ここでは「親指を隠す」という風習の意味と、宮型から洋型へと姿を変えてきた霊柩車の歴史を、想送庵カノンの視点でやさしくひもといていきます。

「霊柩車を見たら親指を隠せ」という言い伝えは、地方によって少しずつ言い方が違うものの、日本各地に残る民間信仰のひとつです。
もっとも広く知られている解釈は、親指を「親」に見立て、死を象徴する霊柩車から親を守る、という考え方です。「親が早く亡くなりませんように」「親に長生きしてほしい」という祈りを、ささやかな仕草で表したものといえるでしょう。
科学的な根拠があるわけではありません。とはいえ、迷信と切り捨ててしまうのも少し寂しい気がします。
医学が今ほど発達していなかった時代、人々は身近な人の長寿や健康を、こうしたささやかな所作に託してきました。「親指を隠す」という小さな仕草は、家族を思う気持ちが習慣として残った、温かな祈りの形でもあるのです。
昭和の時代に街でよく見かけた霊柩車といえば、「宮型霊柩車」です。
車の後部に、お寺のお堂のような「宮殿型」の装飾を載せた独特の車両で、彫刻や金箔がふんだんにあしらわれた、いかにも荘厳な姿をしていました。「故人をできるだけ立派に送り出したい」という気持ちが、その豪華なつくりに込められていたのです。
現在の霊柩車の主流は「洋型霊柩車」です。クラウンやセンチュリーなどの高級車をベースにしたシンプルなデザインで、外観も控えめで葬儀を連想させにくいことが特徴です。
洋型霊柩車には、たとえば次のようなタイプがあります。
地域への配慮や費用、職人の減少
しかし時代が進むにつれ、宮型霊柩車を取り巻く事情は少しずつ変わっていきました。
・火葬場周辺の住民への配慮から「宮型霊柩車」の利用を控える動きがおきた。
・仰々しいスタイルよりシンプルさを好む傾向がある東京から徐々に減少し、地方に広まっていった。
・需要の減少と共に、車両の製造コストや維持費が大きくなり生産控えが進んだ。
・需要の低下とともに、彫刻を手がける職人が高齢化し、製造が難しくなった
こうした事情が重なり、宮型霊柩車は徐々に表舞台から姿を消していきました。
近年では、環境への配慮からトヨタ・プリウスをベースにしたハイブリッド霊柩車も登場しています。静かでスマートな印象の車両が増え、現代の葬送文化にすっと馴染むかたちへと進化してきました。
こうした変化の背景には、葬儀そのものへの価値観の変化があります。
かつては「立派に見える葬儀」が良い葬儀の象徴でしたが、近年は「故人らしさを大切にした、家族の時間を中心に置く葬儀」を望むご家族が増えてきました。霊柩車もまた、その時代の心情を映す鏡のように、姿を変え続けているのです。
海外、特に欧米諸国の霊柩車は、もともと黒塗りのリムジンやステーションワゴンが中心で、装飾の少ない控えめなデザインがほとんどです。
葬儀そのものが、礼拝堂や教会で行われる宗教儀式として組み立てられているため、車両に「故人の格」を表す役割があまり求められなかったのです。
そう考えると、宮型霊柩車のような派手な装飾の車両は、世界的に見てもかなり珍しい存在でした。
お寺のお堂を模した荘厳な意匠は、「亡くなった方を仏様としてお迎えする」という日本ならではの宗教観を、街なかでもひと目で表現するものでもあったのです。やがてその役割が薄れ、海外と同じく控えめなデザインへと収れんしていったのは、時代の流れとして自然なことだったといえるでしょう。一方今でも盛大に弔うことを良しとするアジアの一部の仏教国では「走る寺院」として、人気を博しています。
現代の街なかでは、霊柩車に気づかないまますれ違うことも少なくありません。控えめな洋型霊柩車は、一見するとセダンやワゴン車のようにも見えるためです。
それでも、ふと「あ、霊柩車だ」と気づいたとき、心の中で手を合わせて冥福を祈ってみてください。見知らぬ誰かのために祈るという尊い行為は、ご自身の人生を豊かにしてくれることでしょう。
もしお子さんと一緒のときに見かけたら、死を忌み嫌うことなく「あれは亡くなった方を運んでいる車よ」と、そっと伝えてください。そして「命について」家族の中で考えるきっかけとしてはいかがでしょうか。幼いころから命の尊さを学ぶことは、子供たちが自身の命だけでなく、目の前にいる命も大切にできる人に成長できるのではないでしょうか。
正式なマナーではなく、昔から伝わる民間信仰のひとつです。「親に長生きしてほしい」という祈りが込められた習わしで、現代では必ずしも行わなくてはならないものではありません。
親指を「親」に見立て、霊柩車という死を象徴するものから親を守るという発想から生まれた風習です。大切な人を守りたいという素朴な気持ちが、形として残ってきたものといえます。
近隣への配慮、製造費用や職人の減少、車両規制の強化などが重なり、現在は控えめな洋型霊柩車が主流になっています。葬送に対する価値観の変化も大きな要因です。
主にリムジン型・バン型などの洋型霊柩車があり、外観も一般車に近い控えめなデザインが特徴です。搬送用とセレモニー用で使い分けられることもあります。
パブリックなセレモニーからドメスティックなセレモニーの選択をした日本人の葬儀への価値観の変化が反映されています。葬儀全体と同じく「その方らしさ」を尊重する流れの一部といえます。
かつての煌びやかな宮型霊柩車から、シンプルな洋型霊柩車へ――。その変化のなかには、葬儀がパブリックなセレモニーから、ドメスティックなセレモニーへ変化した日本人の葬儀感が映し出されています。
街で霊柩車を見かけたとき、そっと親指を隠してみる。それは古い迷信というより、家族を大切に思うご自身の気持ちを、もう一度確かめる小さなひと時なのかもしれません。
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あなたを忘れない株式会社
代表取締役 三村 麻子(みむら あさこ)
<想送庵カノン(滞在型安置施設)の運営>
故人と家族が「最後に過ごす時間を大切にする」セレモニーホール
<専門学校>
東京ホスピタリティ・アカデミー
葬祭ディレクター学科 講師
<供養コンシェルジュ>
供養コンシェルジュ協会 理事/講師
<看取りサポートのパイオニア>
高齢者を支える家族に
「疲れない介護」「家族が幸せになる看取りと葬送」を提案。
【看取りの水先案内人として幅広く活動】
家族に深く寄り添う相談スタイルで、
生前のご相談から、お見送りのあとのグリーフケアまで
多数の相談実績と活動歴を持つ終活の専門家。
2004年に葬儀式場の運営に携わって以来、
葬送の現場に立ち続けている。
2019年には、安置と面会に重きを置いた施設として
想送庵カノンを開設。
<サポート内容>
生前整理、介護、葬儀、供養、遺品整理、グリーフケア
<著書>
・初めて喪主になる人のための親を心から見送る葬儀ガイド
・親が死んだ5分後にあなたがしなければならないこと
・離れて暮らす親と上手に付き合うための本
・親には一人暮らしをさせなさい
・親の老後に寄り添うために知っておきたいこと
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